シネマ座の怪人

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『アトミック・ブロンド』劇中挿入歌に感動した話

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※この記事は作品の内容に触れています

アトミック・ブロンド』、派手なスパイアクションかと思いきや、『裏切りのサーカス』など、ル・カレの描くスパイ物語を彷彿とさせる本格的なシナリオ。素晴らしい出来でした。正直、頭を空にして見ようとしていたので不意打ちでしたが、楽しみました。

前置きはその程度に。本題へ。本題は劇中挿入歌に"Under Pressure"はヤバいという話。

Queen - Under Pressure (Official Video) - YouTube

本当に、これをあそこで流すのはかなりヤバいのですが、このヤバさに気づくのは、よほどのロック好きか、吾輩と同じおっさんでしょう。


【1】名曲すぎてヤバい
"Under Pressure"は、Queenデヴィッド・ボウイが組み、生み出した名曲です。もうね、伝説のアーティストが組んでいる、この時点でヤバい。


【2】歌詞が作品に合いすぎてヤバい
さて「抑圧の下で」というタイトルの通り、この歌、壁の歌です。「抑圧の下、ビルは焼け、家族は2つに引き裂かれ、人々が路頭に迷う」「これがラストダンス、これが私たちの姿」… ブロンドは最後に何を思うのか。彼女の本当の姿を考えさせる歌詞にもかかわらず、あの通り見事に明るく爽やかなメロディでヤバい。


【3】東西を超えた曲でヤバい
この曲、1986年7月、冷戦下のハンガリーブダペストQueenが行ったライブでも演奏されました。当時、共産主義であったハンガリーは「鉄のカーテン」の東側。対するQueenは西側を代表するアーティスト。東西を超えたこのライブの実現がいかに奇跡的であったかは、想像に難くありません。壁を崩壊させる一つの時代の流れを生みました。壁が市民の手により壊される3年前のお話です。そんな象徴たる曲を、この作品のあの場面の挿入歌とエンディングにもってくるなんて、とにかくヤバい!

ちなみにQueenのボーカル、フレディ・マーキュリーにとっては、これが最後のツアーとなります。

そういうわけで、『アトミック・ブロンド』は、女スパイがドンパチする派手なスパイアクション映画かと思いきや、冷戦の終結までを舞台にし、スパイ達が抱く不信感や不安、信条や名声欲、無常感までもを描き切った、意外と真面目なスパイ映画で、曲も、単に時代にあった80年代の名曲を特集したのではく、最後はしっかり「時代背景」に相応しい名曲でもって締めくくられていて、これはもう完全にしてやられちゃったナァ、というお話でした。


【オマケ】
劇中挿入歌の一つ、"I Ran"は『ラ・ラ・ランド』でミアちゃんがセブにリクエストした曲でもありますネ。

A Flock Of Seagulls - I Ran (So Far Away) (Atomic Blonde Soundtrack) - YouTube


【オマケ 2】
冒頭、パーシヴァルがベルリンの街を車で案内する際「あそこが検問所」と言ったセリフ。訳は「検問所」でしたが、実際には"That is Check Point Charlie"とハッキリと名称で紹介していました。チェックポイント・チャーリーは、『ブリッジ・オブ・スパイ』でアメリカの青年が解放された場所。 

そう、「その時代」のお話なのです。